Home Mamde Baton vol.3 相乗り上等!? バイクと農業のタンデム走行・・・。

  九州の山奥、天孫降臨の郷として親しまれる高千穂の谷あい、ある里山の中に「おたに家」という、小さな蕎麦屋がある。秘境の絶品蕎麦と、もち麦やはと麦などの雑穀を使った逸品たちを農薬に頼らずに育てる。

  ひょんなことからそれを育む彼らに出会った私は、バラエティに富んだ面々で紡がれる、まるで「家」のような風景達へ、心の底から興味が溢れた。そして今ここに、そんな人々のインタビュー集を記すことにした。是が非でも次世代へと繋ぎたい、「手作りのタスキ」=“Home Made Baton”として。

  第3弾の今回は、高千穂の山々に囲まれた、10 町歩(10ha)を優に超える広大な「おたに家」の農地に飛び出してみることにした。そこには、かつてバイクに陶酔した男の、何処かロマンに溢れる人生の軌跡があった。

 


へと辿り着いたバイク乗り

   - 本日はよろしくお願いします。台風 14 号、大変でしたね。

本当ですね。この通り、稲穂もほとんど、べったりと倒れてしまったので、稲刈りに向けて乾かすために起こすのに一苦労です。

おたに家では蕎麦を広大に栽培していますので、米と収穫期が重ならないようにしています。たくさんの高千穂の農家が行う稲作に比べて、最も早い時期に行います。収穫直前に今回のように強い台風が来たら、お手上げですね。そうなったらただひたすら人力を使って、丁寧に一束一束起こしてあげるんです。

   -  大変ですね・・・。 順番が前後してしまいましたが、自己紹介をお願い致します。

そうでしたね(笑)。 福岡県京都郡出身の引地です。今年で54才になります。おたに家に入社させてもらって、今年が3年目ですね。自然相手でなかなか上手くいかないことも多いですが、段々と畑や田んぼのリズムやサイクルも少しずつ掴めてきそうです。

 

   -  前職はバイク屋さんをしていたそうですが、どうして農業へと転職されたのですか?

機械のパーツや部品は工場であらかじめ作られて届くじゃないですか?そうではなく、「自分の手で0から作るもの」を体験してみたいと思い始めて、思い切って「土と種から育てる」という農業の世界に飛び込みました。

移住した当時、高千穂出身の妻の実家の隣の方がおたに家に勤めていたこともあって、なんだか身近に感じました。今は日々自分達が食べている、「食べ物の根っこ」に関わる仕事ができて幸せです。

 


麦の「個性」に惚れ込んで

   -  お蕎麦は元々お好きだったのですか?

そうですね。レストランの食器卸しの会社に勤めていたサラリーマン時代も、営業の合間にサラッと食べられる蕎麦が好きでした。蕎麦って日常的なのに、ちょっと特別な美味しいものを食べられるところが良いですね。

   -  お気に入りのお店があったりしたのですか?

いえ、僕は一つの店にずっと通い詰めるというよりは、”イチゲンさん”でフラッと駅前などのお店に入って、いつも違う店で楽しんでいましたね。大将と常連さんとのドラマや、その店だけの独特のコダワリが垣間見えるのが面白くて、「本当に色んな蕎麦屋があるなー」と思って巡っていました。美味い不味いも、もちろん大切なのですが、蕎麦屋の「個性」みたいな部分がすごく好きなんです。

 

   -  その中でも引地さんにとって「おたに家」はどんなお店でしたか?

まず、「自家栽培で無農薬の蕎麦を作っている」というお店に出逢ったことがなかったので、その点は強烈な「個性」でしたね。(笑) そして食べていて、「これが自分で作れたら面白いだろうな」と思ってしまいました。それから入社して、今では農業をバリバリやっているんですから、人生って不思議なものですよね。

 


と向き合う日々と

   -  おたに家での役割のお話を聞かせてください。

おたに家では農業部門全般のことをやっています。標高800メートル以上の「五ケ所高原」にある蕎麦畑をひたすら見て回って必要に応じて作業をしたり、雪山で椎茸栽培の準備のためにチェーンソーで玉切りとかも、もちろんやりますよ。(笑)

   -  ハードですね・・・!ギブアップしたくなることはありませんか?

そりゃあ、ありますね。(笑) けれども今は中々手が回っていない部分も、これから収量を伸ばしてお客様に喜んでもらえると思ったら、頑張れます。卸先の方々も、高千穂産の蕎麦やハト麦などを待ってくれているので、まだまだやれることは山ほどあると感じています。

 

   -  作物を作る上でのこだわりはありますか?

おたに家が採用している「有機栽培」では、実は特にこちらでできる事の範囲は少ないのですよね。もちろん土作りや草刈りなど、化学肥料や農薬を使う慣行農法とは比べ物にならない労力がありますが、基本的には「種」の持っている力を引き出してあげることに注力していますね。

特におたに家で多く栽培しているのは、「在来種」と呼ばれる分類のタネです。これには人間が遺伝子レベルで、「美味しい」と感じるエッセンスが詰まっているので、しっかりとその力を惹き出してあげることにプライドを持って向き合っています。

 

 


り続けるバイクと農機

   -  農業部門の中でも機械のメンテナンスなどは一任されているとお伺いしました。

そうですね。バイクの整備士も24年していましたので、最初は違いに戸惑いましたが、基本的な構造を理解してしまえば、メンテナンスや簡単な修理なんかも少しずつできるようになってきました。農機はずいぶん長いこと使えるものも多いので、逆に構造上に問題があるものなどは自分で工夫して、そこら辺にあるものを使ってちょっとしたアレンジもしますよ。例えば畝間の土を耕す管理機には、拾ってきたアルミ缶を使って「キャブレターカバー」を作ったりもしました。(笑)

   -  逆に、バイクと農機の共通点などはありますか?

乗り物には「人車一体」という考え方があります。人間の意図を細かく汲んで、まるで身体と車体が一緒になっているように動作するという理想があります。そういった意味では、農機も手作業の延長線上の機械なので、人間の感じた瞬間にその機能を拡張するように整備して、丁寧に操作していきたいですね。

 

   -  今まで整備士以外にも、卸売やプログラマーまで様々な業種をご経験されたそうですが、その中でも農業は引地さんにとって、どんな仕事ですか?

僕にとって農業はいちばん「思い通りにならない」仕事ですね。今までの仕事は、完成するまでのロードマップが描けて、仕入れや工数など算段を立てて納期までに完成形を作るというものでした。しかしながら農業は真逆で、どんなに計算しても自然が相手なので。物凄く途中の工程は上手くいっているように思えても、今回のように大きな台風が来てしまえば、人間は太刀打ちできないですものね。

それでも毎年データを集め続けて、試行錯誤しながら雨の日も風の日も田畑に出て。作物達と向き合い続けた結果、豊作の年があると本当に報われます。そんな、「思い通りにならないからこそ、面白い。」という所が、農業の何とも言えない魅力ですね。

 


 引地さんは、流石に整備士という専門的な職業を20年以上続けてきただけあって、一つひとつの仕事に経験を根拠とする自信のようなものを垣間見た。理路整然とした職人気質の中にも、柔らかい人当たりやお茶目な一面にも、とても親近感が湧いた。

 ここまで3本のインタビューをしてきたが、高千穂というこの山奥の土地に暮らす人々は、何故こんなにも暖かくおおらかに自然と向き合いながら、働くことができるのだろうか?その秘密に迫るべく、「おたに家」の創業メンバーに話を聞いてみることにした。次回もご一緒に、心待ちにしていただければ幸いだ。

 

◎引地さんおススメの農作物からできた商品たち◎

・有機栽培 “はと麦シリアル”

https://otaniya.shop/?pid=173968816

・【楽天市場】 雑穀もち麦 〈300g〉

・〈1kg エコパック〉

https://otaniya.shop/?pid=174701920

◎おたに家ホームページ

https://otaniya.co.jp/

◎おたに屋 Instagram

https://www.instagram.com/otaniya.soba/

Home Made Baton vol.2 フワフワ台風姉さん?お茶焙煎に味噌作り!嵐のような日々に迫る。

 九州の山奥、天孫降臨の郷として親しまれる高千穂の谷あい、ある里山の中に「おたに家」という、小さな蕎麦屋がある。秘境の絶品蕎麦と、もち麦やはと麦などの雑穀を使った逸品たちを農薬に頼らずに育てる。ひょんなことからそれを育む彼らに出会った私は、バラエティに富んだ面々で紡がれる、まるで「家」のような風景達へ、心の底から興味が溢れた。そして今ここに、そんな人々のインタビュー集を記すことにした。是が非でも次世代へと繋ぎたい、「手作りのタスキ」=Home Made Baton”として。

  第二弾の今回は、加工業の現場を取り仕切る女性、「絹代さん」に話を聞いてみることにした。奇しくも絹代さんの入社のきっかけの一つにもなった「台風14号」の直後、加工場のご近所の方と協力して後片付けをしながらのインタビューのスタートとなった。


風“14号”が運んだ縁

 ―  本日はよろしくお願いします。片付けながらで恐縮ですが、まずは自己紹介をお願いします。

宮崎県高千穂町出身の佐藤絹代です。おたに家で働いて今年でちょうど、10年目になります。

 

 —  ベテランですね。どんなきっかけで入社されたのですか?

 その当時は地元に帰ってきていくつか職を転々とした後、夫とトマト農家を営んでいました。けれども2005年の高千穂鉄道に大きな打撃を与えた台風14号で、30アールのビニールハウスがペッチャンコになってしまい、その時に農家は廃業しました。そこからまた職探しが始まり、数年後に家の近所にお店ができた「おたに家」にお世話になることになりました。

その当時はまだ創業したてで、蕎麦屋が中心事業だったので加工業はほんの少しだけでした。まさか10年後にこんなに色々な素材を扱うことになるとは、夢にも思いませんでした(笑)。

 —  絹代さんは、自家用のお米や無農薬野菜なども育てられているそうですね?

6畝の小さな棚田と、食べる分だけの野菜を細々と作っています。休日は田んぼの草刈りをしたり、趣味みたいなものですね。学生時代は名古屋で毎週末のようにディスコで踊り狂っていたので、その頃からは考えられない変化です。夫からのプレゼントもいつも間にかアクセサリーやバックではなく、草刈り機になってしまいました(笑)。


煎のスペシャリストとして

 —  早速ですが、おたに家ではどんな仕事を担当されていますか?

無農薬で自家栽培のはと麦やトウモロコシなどの穀物や、高千穂の山から積んできた野草を使ったお茶の焙煎を担当しています。素材の乾燥から管理・熟成、焙煎してパッケージングまでを、一任してもらっています。穀物の焙煎をできる加工場は少なく、ありがたいことに北海道の法人様からも委託していただいたりもしています。ヨモギやドクダミ、桑の葉などは毎年高千穂の山々を探し回って見つけてきます。

今ではよもぎ茶がだいぶ知っていただいているのかずいぶん減りましたが、以前は田んぼの畔でずっとヨモギを取っていて地元の方から不審がられることもありました(笑)。職業病なのか、山道を通るときは思わず野草を探してしまいます。

 —  本日はちょうど焙煎の作業だそうですね。今から何を焙煎されるんですか?

今日は注文があった「桑の葉茶」と「どくだみ茶」を焙煎します。こんな風に、山からとってきたら刻んで乾燥させて、真空して乾燥しておきます。中には2~3年くらい熟成させるものもありますね。

 —  (ドクダミの封を開けると・・・) 凄い・・・青々しい香りですね!

そうですね。それぞれの作物の一番いい季節に乾燥してすぐパッキングするので、本来の香りが維持します。ドクダミは特に根っこまで取ってきて、丁寧に泥を洗ってから仕込みますので、手間がかかっていますね。

 —  途方もない労力ですね・・・。こちらが桑の葉ですね?

 はい。桑の葉も同じように山から取ってきたら、新鮮なまま乾燥保存します。実は今、商品に「桑の葉茶」はラインナップされてないのですが、地元高千穂の社長とのお付き合いで、“一組のお客様専用”で焙煎しています。何やら「高血糖に良い」らしく、大変ありがたいことにここ数年は毎日分を、ご愛用いただいていますね。(もちろんご注文があれば材料は沢山とってありますので、直ぐにでも製造できます。)

 —  焙煎するときの特に注意する点や、こだわりを聞かせてください。

注意点はやはり温度管理ですね。じわじわと温度を上げていき、よもぎや桑の葉は160℃になるまでじっくり焙煎してあげます。しっかりと乾燥・殺菌できて、かつ香りを最大限に惹きだす温度を意識しています。昔は直火で手回しの窯だったのですが、今はそれが機械化されてより厳密に温度管理できるようになっています。

こだわりは、仕上がり時の香りの出方ですね。今日のドクダミで言えば、酸味があって何処かフルーティな香りに。また桑の葉だと、なんだか懐かしいような青々とした香りを残しつつも、じっくりと味わい深いように。一番人気の「はとむぎ茶」や「黒豆茶」などの穀物は、香ばしい香りが引き立つように200℃以上まで更に熱します。

 —  現在6種類のお茶があるそうですが、絹代さんの特にお気に入りはどのお茶ですか?

宮崎県都城市から仕入れている、有機のごぼうを使った「ごぼう茶」ですね。1本1本丁寧に洗うのが大変ですが、苦労して出来上がった「ごぼう茶」は甘みと香りが口の中に広がって、とても幸せな気分になります。


噌作りを通して伝統を繋ぐ

 —   (翌日)  今日は何の仕込みをするのですか?

今日は、おたに家の10年以上のロングセラー商品、「おかず味噌」を作ります。その中でもA4等級以上の地元ブランド牛を使った「プレミアム高千穂牛肉味噌」の中の2種類を仕込みますよ。

 — 10年以上前・・・どういうきっかけで作り始めたのですか

元々は、宮崎や鹿児島・沖縄の家庭に伝わる伝統の味、「油味噌」としておたに家の女将勝世さんが昔から作っていました。それが美味しいと地域で話題になって、勝世さんが近所の方に「おすそ分け」し始めたのが始まりです。自家製味噌に、シラスや桜エビを入れて作るオリジナルの「勝世流」は、未だにおかず味噌の「海幸山幸」という味として根強い人気です。

 — そこからプレミアム高千穂牛肉味噌はどうやってできたのですか?

7年前におかず味噌の人気にあやかって、ギフトやお土産などに「もっと喜んでもらえるものを作りたい」と考えて、商品開発されたのが「プレミアム高千穂牛肉味噌」でした。若い社員が中心となって、専門のお肉屋さんでも1か月に10キロ前後しか流通しないブランド牛の希少部位である「スネ肉」をゴロゴロと贅沢に使って、「ご褒美」のような逸品になればいいなと思っています。

 — お味噌も全て自家栽培大豆で手作りだそうですね?

はい。もちろん農薬を使わずに育てた高千穂産の「フクハヤテ」という種類の大豆で味噌を仕込んで、5年以上熟成させたものを「おかず味噌」シリーズには使っています。味噌を仕込むための「麹」も、おたに家の近所の棚田で育てた「特別栽培米」を用いてゼロから作っています。素材まで全て手作りの味噌で、愛情をたっぷり込めて届けているので、是非沢山の人に喜んでほしいですね。


材から未来を紡ぐ

 — 2日間も加工現場を見学させていただいて、ありがとうございました。今後の展望などはありますか?

こちらこそありがとうございました。今後は、今まで以上にお茶や味噌の味にもこだわって、「おたに家」の名前を全国の色んな方に届けたいですね。その為にも、今は自家栽培で無農薬の「そば」をはじめ、「もち麦」や「はと麦」などの商品開発にも力を入れています。

 — 聞いているだけで美味しそうです・・・!絹代さんの、個人的な目標などはありますか?

例えばお菓子でいうと、そばの実を使った「グラノーラ」や「クッキー」、「フロランタン」なんかも作っています。他にもはと麦やもち麦を使った雑穀の「シリアル」なども、だんだんと人気が出てきているので。

自社栽培で無農薬の穀物を作っている企業として、その利点をフルに活かして常に次の展開を考えていきたいですね。

 


あとがき

 絹代さんはフワフワとした雰囲気の中にも、「おたに家」で試行錯誤しながら培ってきた技術と自信を垣間見た。そして流石、山あり谷ありの人生を乗り越えてきただけあって、とても芯の強い女性だった。普段は冗談交じりに軽快な口調の絹代さんも、いざ作物を前にすると集中した表情は真剣そのもので、まるで陶芸家のそれを思わせた。

 次はこの「家」で農業に携わる人々の物語を追い求めて、畑に飛び出してみようと思う。どんな景色が観られるのか、今から既にとても心が躍っている。


 

◎おたに家ホームページ

https://otaniya.co.jp/

◎おたに家 Instagram

https://www.instagram.com/otaniya.soba/

 

◎絹代さんおススメのお茶

・ごぼう茶はこちら

https://otaniya.shop/?pid=173935753

・はと麦茶(お徳用)はこちら

https://otaniya.shop/?pid=173935844

◎【楽天市場】おかず味噌&プレミアム高千穂牛肉味噌ギフトセット

https://otaniya.shop/?mode=cate&csid=0&cbid=2858253

 

Home Made Baton vol.1 蕎麦とコーヒーの二刀流? アクティブ過ぎる!ある職人の半生とは。

九州の山奥、天孫降臨の郷として親しまれる高千穂の谷あい、ある里山の中に「おたに家」という、小さな蕎麦屋がある。自家栽培の蕎麦だけでなく、もち麦やハト麦、トウモロコシの穀物をはじめ。生姜や椎茸に至るまで無農薬で育てる彼らは、プロフェッショナルという言葉が陳腐に聞こえるくらいに、「職人気質」の集団だった。

ひょんなことから秘境の絶品蕎麦と、それを育む彼らに出会った私は、バラエティに富んだ面々で紡がれる、まるで「家」のような風景達へ、心の底から興味が溢れた。そして今ここに、そんな人々のインタビュー集を記すことにした。
是が非でも次世代へと繋ぎたい、
「手作りのタスキ」=“HOME MADE BATON”として。


年が「おたに家」に出会うまで

  ― 本日はよろしくお願いします。まずは、自己紹介をお願いします。

宮崎県延岡市出身の、山下政宏です。今年で40歳になります。2018年から、おたに家にお世話になって4年目です。趣味は、アウトドアとかマラソンですかね。

  ― マラソンですか・・・凄いですね。どういった所で走られているんですか?

最近はめっきり減らしましたが、前はおたに家から上岩戸大橋(往復30kmの急こう配)まで走ったりしていました。他にも招待選手として東京マラソンも走りましたし、ドイツのフランクフルトマラソンにも出場したことがありますよ。

 ―  物凄くアクティブですね。そんな山下さんの、おたに家に出会った経緯をお聞かせください。

もともと蕎麦好きの父の影響か、小さなころから蕎麦が大好きで、しょっちゅう食べに連れて行ってもらっていました。
家業を手伝っていた2013年、旅行で鹿児島に行ったんですね。その時に食べた「つゆしゃぶ(豚肉のしゃぶしゃぶのシメに蕎麦を入れる料理)」に一目惚れをして、「やっぱり蕎麦を打ちたい」と思うようになりました。勢いで大分県豊後高田市の「そば道場」さんにスタッフとして半年。その後、単身赴任で大阪の名店「なにわ翁(ミシュランガイド掲載)」さんに修行に行かせていただきました。
そして「そろそろ地元に帰って自分の蕎麦が打ちたいなー・・・」と考えていた矢先に、なんと「無農薬自家栽培の蕎麦」が打てるという求人を見つけたんです。それが「おたに家」との出会いでした。

 ―  おたに家に入ってからの、印象的なエピソードはありますか?

4年前の入社初日、70歳でピンクヘアーの店長が現れた時は本当に驚きました。とてもバイタリティに溢れていて、未だに20キロ近い熱湯の入った蕎麦窯を持ち上げるような、強靭な肉体のパワフルおばあちゃんです。

また、流石に「神話の里高千穂」なだけあって、神社通のお客様は多いです。その影響で、僕も神社巡りが好きになりました。今では関西からご来店のお客様の、神社巡りのツアーガイドまで頼まれています。(笑)


琲を焙煎する蕎麦屋との出会い

 ― 山下さんは、蕎麦打ちとは別にKAWASEMI COFFEEというコーヒーの豆屋さんを営まれてますね?どういった経緯で、始められたのでしょうか?

おたに家の今村社長と一緒に研修として、和歌山県かつらぎ町にある「あまの凡愚」さんに蕎麦を食べに行ったんですよ。その時に店主の真野さんが淹れられていた、自家焙煎の珈琲に感動してしまって。それ以来、自分で珈琲焙煎の勉強をし始めました。そして今年(2022年)に入ってから、“KAWASEMI COFFEE”を始めました。

 ― 最近はご自宅でお花屋さんの奥様と一緒に、イベントなどを開催されていますよね?

そうなんです。お客様にはお花のワークショップなどと一緒に、珈琲を楽しんでいただけて嬉しいです。蕎麦と同じで、美味しいと言っていただけると、どんどん探求心が湧いてきます。農家さんと繋がる豆選びを大切にしていて、最近ではスペシャリティコーヒーなども扱っています。

― 山下さんも奥様も、instagramで積極的に情報を発信されてますね?お二方とも2千人超のフォロワーさんがいらっしゃいます。

リール動画などを活用して、おたに家のお店のことや、珈琲や出店イベントのことも知ってもらえるように、ほぼ毎日投稿しています。高千穂のお店にも、最近は女性のお客様が沢山ご来店していただけるようになって、小さなことですが継続の力を感じています。引き続き発信して、蕎麦と珈琲の美味しさを、一人でも多くの方に届けていきたいですね。


麦と珈琲の意外な共通点とは?

 ― 山下さんご自身、蕎麦と珈琲の両方を職人的な生業とされています。頭の切り替えや工程の違いなどに、戸惑いはありませんか?

それが実は、「蕎麦と珈琲」って意外にとても似ているところがあるんですよ。蕎麦の実とコーヒー豆、どちらも加工しなければ美味しく食べられないこと。石臼とコーヒーミルで挽いてから調理するところや、最後は繊細な時間配分でお湯を使って仕上げるところまで。よく観察しながら向き合っていると、物凄く似ているんです。

 — その中でも、特に「おたに家の蕎麦」へのこだわりはありますか?

なんといっても、「無農薬自家栽培ならでは」の、蕎麦の香りと甘みですね。農家の店だからこそ味わえる、毎年違った奥深さを楽しんでいただきたいです。蕎麦打ちに関して言えば、特にもりそばの喉越しや、嚙んだ時の旨味にはこだわっています。十割蕎麦なのにボソボソせずに、最後までじっくりと味わえるのが「おたに家の蕎麦」です。とはいえ、気軽にランチでサラッと食べられるところも、同じく蕎麦の醍醐味ですね。

 ― 聞いていたら、早く食べたくなってきました。最後に、今後の展望などあればお聞かせください。

今後とも、蕎麦と珈琲のように「シンプルだけど奥深い」ものを、追求していきたいですね。その中でも農家さんの大切に育てた作物を繋ぎ続けて、「素材の手助けをしてあげる」ような。そんな存在であれたらなーと、日々想っています。食感と旨味が「モシャッ!ジュワッ!」っと、にじみ出るような蕎麦を打ちたいです。
また、現在宮崎市内のビール工房、「青空エール」さんと提携して有機栽培の蕎麦を使った「高千穂蕎麦エール」を作りました。(現在は大人の事情で「おたに家店舗のみ」で、楽しんでいただいていております。)

今後は、こういった蕎麦の別の楽しみ方も提案していただければ、職人冥利に尽きますね。


あとがき

 山下さんは話せば話すほど、独特の柔らかい笑顔に安心させられ、こだわり抜いた確かな技術には関心させられた。それと同時に、もっともっと「おたに家」のことが知りたくなった。引き続きインタビューを通して、この「家」に住まう人々のバトンを、静かに繋いでいくことにする。是非とも、一緒に楽しんでいただければ幸いである。


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◎山下よりおすすめ商品

十割蕎麦

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蕎麦の実

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