九州の山奥、天孫降臨の郷として親しまれる高千穂の谷あい、ある里山の中に「おたに家」という、小さな蕎麦屋がある。秘境の絶品蕎麦と、もち麦やはと麦などの雑穀を使った逸品たちを農薬に頼らずに育てる。ひょんなことからそれを育む彼らに出会った私は、バラエティに富んだ面々で紡がれる、まるで「家」のような風景達へ、心の底から興味が溢れた。そして今ここに、そんな人々のインタビュー集を記すことにした。是が非でも次世代へと繋ぎたい、「手作りのタスキ」=“Home Made Baton”として。
第二弾の今回は、加工業の現場を取り仕切る女性、「絹代さん」に話を聞いてみることにした。奇しくも絹代さんの入社のきっかけの一つにもなった「台風14号」の直後、加工場のご近所の方と協力して後片付けをしながらのインタビューのスタートとなった。
台風“14号”が運んだ縁
― 本日はよろしくお願いします。片付けながらで恐縮ですが、まずは自己紹介をお願いします。
宮崎県高千穂町出身の佐藤絹代です。おたに家で働いて今年でちょうど、10年目になります。
— ベテランですね。どんなきっかけで入社されたのですか?
その当時は地元に帰ってきていくつか職を転々とした後、夫とトマト農家を営んでいました。けれども2005年の高千穂鉄道に大きな打撃を与えた台風14号で、30アールのビニールハウスがペッチャンコになってしまい、その時に農家は廃業しました。そこからまた職探しが始まり、数年後に家の近所にお店ができた「おたに家」にお世話になることになりました。
その当時はまだ創業したてで、蕎麦屋が中心事業だったので加工業はほんの少しだけでした。まさか10年後にこんなに色々な素材を扱うことになるとは、夢にも思いませんでした(笑)。
— 絹代さんは、自家用のお米や無農薬野菜なども育てられているそうですね?
6畝の小さな棚田と、食べる分だけの野菜を細々と作っています。休日は田んぼの草刈りをしたり、趣味みたいなものですね。学生時代は名古屋で毎週末のようにディスコで踊り狂っていたので、その頃からは考えられない変化です。夫からのプレゼントもいつも間にかアクセサリーやバックではなく、草刈り機になってしまいました(笑)。
焙煎のスペシャリストとして
— 早速ですが、おたに家ではどんな仕事を担当されていますか?
無農薬で自家栽培のはと麦やトウモロコシなどの穀物や、高千穂の山から積んできた野草を使ったお茶の焙煎を担当しています。素材の乾燥から管理・熟成、焙煎してパッケージングまでを、一任してもらっています。穀物の焙煎をできる加工場は少なく、ありがたいことに北海道の法人様からも委託していただいたりもしています。ヨモギやドクダミ、桑の葉などは毎年高千穂の山々を探し回って見つけてきます。
今ではよもぎ茶がだいぶ知っていただいているのかずいぶん減りましたが、以前は田んぼの畔でずっとヨモギを取っていて地元の方から不審がられることもありました(笑)。職業病なのか、山道を通るときは思わず野草を探してしまいます。
— 本日はちょうど焙煎の作業だそうですね。今から何を焙煎されるんですか?
今日は注文があった「桑の葉茶」と「どくだみ茶」を焙煎します。こんな風に、山からとってきたら刻んで乾燥させて、真空して乾燥しておきます。中には2~3年くらい熟成させるものもありますね。
— (ドクダミの封を開けると・・・) 凄い・・・青々しい香りですね!
そうですね。それぞれの作物の一番いい季節に乾燥してすぐパッキングするので、本来の香りが維持します。ドクダミは特に根っこまで取ってきて、丁寧に泥を洗ってから仕込みますので、手間がかかっていますね。
— 途方もない労力ですね・・・。こちらが桑の葉ですね?
はい。桑の葉も同じように山から取ってきたら、新鮮なまま乾燥保存します。実は今、商品に「桑の葉茶」はラインナップされてないのですが、地元高千穂の社長とのお付き合いで、“一組のお客様専用”で焙煎しています。何やら「高血糖に良い」らしく、大変ありがたいことにここ数年は毎日分を、ご愛用いただいていますね。(もちろんご注文があれば材料は沢山とってありますので、直ぐにでも製造できます。)
— 焙煎するときの特に注意する点や、こだわりを聞かせてください。
注意点はやはり温度管理ですね。じわじわと温度を上げていき、よもぎや桑の葉は160℃になるまでじっくり焙煎してあげます。しっかりと乾燥・殺菌できて、かつ香りを最大限に惹きだす温度を意識しています。昔は直火で手回しの窯だったのですが、今はそれが機械化されてより厳密に温度管理できるようになっています。
こだわりは、仕上がり時の香りの出方ですね。今日のドクダミで言えば、酸味があって何処かフルーティな香りに。また桑の葉だと、なんだか懐かしいような青々とした香りを残しつつも、じっくりと味わい深いように。一番人気の「はとむぎ茶」や「黒豆茶」などの穀物は、香ばしい香りが引き立つように200℃以上まで更に熱します。
— 現在6種類のお茶があるそうですが、絹代さんの特にお気に入りはどのお茶ですか?
宮崎県都城市から仕入れている、有機のごぼうを使った「ごぼう茶」ですね。1本1本丁寧に洗うのが大変ですが、苦労して出来上がった「ごぼう茶」は甘みと香りが口の中に広がって、とても幸せな気分になります。
味噌作りを通して伝統を繋ぐ
— (翌日) 今日は何の仕込みをするのですか?
今日は、おたに家の10年以上のロングセラー商品、「おかず味噌」を作ります。その中でもA4等級以上の地元ブランド牛を使った「プレミアム高千穂牛肉味噌」の中の2種類を仕込みますよ。
— 10年以上前・・・どういうきっかけで作り始めたのですか?
元々は、宮崎や鹿児島・沖縄の家庭に伝わる伝統の味、「油味噌」としておたに家の女将勝世さんが昔から作っていました。それが美味しいと地域で話題になって、勝世さんが近所の方に「おすそ分け」し始めたのが始まりです。自家製味噌に、シラスや桜エビを入れて作るオリジナルの「勝世流」は、未だにおかず味噌の「海幸山幸」という味として根強い人気です。
— そこからプレミアム高千穂牛肉味噌はどうやってできたのですか?
7年前におかず味噌の人気にあやかって、ギフトやお土産などに「もっと喜んでもらえるものを作りたい」と考えて、商品開発されたのが「プレミアム高千穂牛肉味噌」でした。若い社員が中心となって、専門のお肉屋さんでも1か月に10キロ前後しか流通しないブランド牛の希少部位である「スネ肉」をゴロゴロと贅沢に使って、「ご褒美」のような逸品になればいいなと思っています。
— お味噌も全て自家栽培大豆で手作りだそうですね?
はい。もちろん農薬を使わずに育てた高千穂産の「フクハヤテ」という種類の大豆で味噌を仕込んで、5年以上熟成させたものを「おかず味噌」シリーズには使っています。味噌を仕込むための「麹」も、おたに家の近所の棚田で育てた「特別栽培米」を用いてゼロから作っています。素材まで全て手作りの味噌で、愛情をたっぷり込めて届けているので、是非沢山の人に喜んでほしいですね。
素材から未来を紡ぐ
— 2日間も加工現場を見学させていただいて、ありがとうございました。今後の展望などはありますか?
こちらこそありがとうございました。今後は、今まで以上にお茶や味噌の味にもこだわって、「おたに家」の名前を全国の色んな方に届けたいですね。その為にも、今は自家栽培で無農薬の「そば」をはじめ、「もち麦」や「はと麦」などの商品開発にも力を入れています。
— 聞いているだけで美味しそうです・・・!絹代さんの、個人的な目標などはありますか?
例えばお菓子でいうと、そばの実を使った「グラノーラ」や「クッキー」、「フロランタン」なんかも作っています。他にもはと麦やもち麦を使った雑穀の「シリアル」なども、だんだんと人気が出てきているので。
自社栽培で無農薬の穀物を作っている企業として、その利点をフルに活かして常に次の展開を考えていきたいですね。
あとがき
絹代さんはフワフワとした雰囲気の中にも、「おたに家」で試行錯誤しながら培ってきた技術と自信を垣間見た。そして流石、山あり谷ありの人生を乗り越えてきただけあって、とても芯の強い女性だった。普段は冗談交じりに軽快な口調の絹代さんも、いざ作物を前にすると集中した表情は真剣そのもので、まるで陶芸家のそれを思わせた。
次はこの「家」で農業に携わる人々の物語を追い求めて、畑に飛び出してみようと思う。どんな景色が観られるのか、今から既にとても心が躍っている。
◎おたに家ホームページ
◎おたに家 Instagram
https://www.instagram.com/otaniya.soba/
◎絹代さんおススメのお茶
・ごぼう茶はこちら
https://otaniya.shop/?pid=173935753
・はと麦茶(お徳用)はこちら
https://otaniya.shop/?pid=173935844
◎【楽天市場】おかず味噌&プレミアム高千穂牛肉味噌ギフトセット
https://otaniya.shop/?mode=cate&csid=0&cbid=2858253